Side/s

 

気がつくと白い天井を見ていた。

彼にそのことに対する疑問はない、記憶がないのだから自分の状況の不確かさも認識できないし、何をしたい、どうしたいという願いのない空っぽな体は、不思議と混乱することもなく、彼の心と同じような真っ白な天井と向き合ったまま穏やかに心臓の鼓動だけを繰り返す。

 

「シン」

 

そう呼ばれていることに、シンは気づいていたが、それが自分の名前であるのかどうかも彼には分からない。しかし何か苦しくて逃れたくてたまらないものから開放されているようなどこか、穏やかな気持だけはあった。

 

 

 

終戦直後のこともそれ以前のことも、『シンアスカ』としての自分も、今のシンは知らない。

それほど危険な状況だった、シンの記憶操作を頼んだのは、他でもない、彼を知る人々だった。しかしその想いは様々で、彼から目を背けたくてそれを享受したもの、彼を守る為にそうせざるを得ないと考えたもの、そして貴重な遺伝子を持つコーディネーターとしての彼を失うわけにはいかないというもの、そんな色んな想いの積み重なりで、結果出された応えは「シン」を消すことだった。

 

 

 

 いつものように病院にいたシンがであったのは赤毛の少女だった。

すらっとした体躯の美人で、その目が何か言いたげに自分を見ていたことをシンは知っていた。

アスランが尋ねてきて、彼はどこかへまた行ってしまった。記憶はなくとも生きている人間の欲求としての最低限の好奇心がないわけではない。当然のこと健康であるシンは外へ出たいと願うようになっていた。

 

ガラス窓の外はプラントらしく人工的ではあったが、夏の日差しが降り注いでいる。

自分の生きている意味がわからないことに大した不安などない、けれどシンは何かを見つけたくて、ようやく身につけた脱走の技術を駆使して、病室をまた抜け出した。

白い廊下を抜けて裏庭の木々の間を縫いわけてフェンスにあいた穴からこっそりと外へ出る。

 

軍事基地ががらんとした姿で広がり、たくさんの軍事車両や、機動していない兵器には布が掛けられ、まるで眠っているかのように静かだった。数名のザフト兵士が点検や見回りをしている程度で、この機体を使うことなどないのだろう。

 

「そこで何をしている・・君は病院から出てきたな・・」

 

凛としたよく通る声が聞こえ、シンは人に見つかってしまったことに驚いて咄嗟に相手を反射的に睨みつけてしまった。

シンが睨んだ相手は、肩に掛かるか掛からないかくらいの光に好けるような金色の髪の毛をした少年だった。年頃はシンと同じくらいだったが、大人びた表情の中の澄んだマリンブルーの瞳がじっとシンを見つめていた。

 

「・・なんだ子どもか・・・。おどろかせるなよ:

「・子どもじゃない。兵士だ。君は病人なんだろ?いいのかこんなところでうろうろして」

「俺どこも悪くないんだよね、多分・・・。退院できないだけで。お前軍人なの?」

「・・・・そうで・・あれたらなと思う」

 

少年の着衣はザフトの兵士のものではない、施設の作業員のものであり、それも正規のものではない。

「アルバイト・・みたいなものかな。おちこぼれなんだ俺は」

「そうは見えないけどな・・・すごいできそうじゃん」

「実は俺も入院していたからまだあんまり色々自信ないんだよ。君もそうじゃない?」

 

少年はそういうと作業着の中に軍手を押し込んで、帽子の鍔を上げる。

 

「まあね。何にも知らないしから。」

 

「名前は?」

 

「みんなはシンって呼ぶ。お前は?」

 

「俺はレイだ」

 

 

 金色の髪の毛の少年、彼は少し照れくさそうにそう返した。

それが、彼らの新たな始めての出会いだった。

互いを知らないのに、よく見知った人との再会のような初対面・・。シンは彼をじっとみた

 

「また会えるといいな、シン」

 

「そうだな」

 

 

胸がざわつく。

シンは病院服の胸元を押さえ、自分が本当に病気なのではないかと思えるほど、感じたことのない、苦しさを感じた。

 

 

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