9 私服
連日連夜の勤務が続き、ろくに休日がなかったミネルバの艦内の殆どの乗組員の疲労はピークに達している。
尤も達していたとしても休むことなどできないほど、日々の仕事に追われているのだから仕方がない。
持ちつ持たれつ、誰かが休んでいるときは誰かが倍働くというそんな日々なのだ。
「だから。ややこしいでしょ、みんな同じ服装で艦内うろついてたら、誰が休暇だとかわからないでしょう?」
会議で、艦内で二番目に偉いはずなのに、どうしても二番目に偉いようには見えない男が声高らかに発言したのはそんな言葉だった。
彼が提案しているのは、休んでいるものが同じ格好で歩いていたら、勤務中にサボっているように見えるということに対しての対処方法だった。
休暇とはいえ、所詮一日や半日の休みではるが、順番にシフトを組んで長い休憩を取るためには、お互いのためにもそこはしっかり分けるべきである、とアーサーは主張している。
「ではアーサーあなたはどうしたらいいと思う?」
「・・・スーパーのアルバイトみたいに「休憩中です」の名札を下げるとか」
「却下。」
「じゃあ制服以外の衣服の着用を義務付けましょう。」
「・・・それが一番無難ね・・」
全くもって必要があるのかないのか分からない会議だと、艦長であるタリアはため息を漏らして、部下の主張を取り入れることにした。
纏まった休暇以外で艦内のものが私服を着ることはない。
しかし皆が疲れている今だからこそ、いらぬ諍いや、不平不満を起こさせない為には、それは正しい。
この冷たい鉄の戦艦の閉鎖的な空間の中で殺伐として疲労ゆえに人を妬んだり僻んだり疑ったりといった行為は避けたいのが、軍人でありながら平和主義的で、どこか暢気なアーサーの考えなのだ。
この作戦はある意味大成功で、若くてまだ花盛りの兵士たちには好評だった。
艦内の広報部の発行する新聞にファッションのコーナーができたりと、若者の関心のある内容が増え、娯楽の一種としても堂々とおしゃれを楽しめるようになったのだ。
しかし反面失敗でもあった。
「アーサー・・早く休日を切り上げてくれない・・?」
「え?忙しいのでしたら別に今でもお手伝いしますけど」
「いえ・・そうじゃなくて・・・恥ずかしいのよ・・」
タリアは休日中の補佐の彼に眉をしかめた。
「・・・・あなたの格好が・・・」
発案者アーサー・トライン。彼は私服が本当にださかった。
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